社労士通信

新規入場者教育の概要と必要性|具体的な内容や建設業での進め方も解説

2024年11月26日

多数の関係者が出入りする建設現場では、作業開始前に新規入場者教育が実施されています。
新規入場者教育は労働災害リスクを低減させ、作業者の安全を確保するために重要です。

本記事では、新規入場者教育の必要性や具体的な内容を中心に解説します。
また、建設業での新規入場者教育の進め方や資料の作成例は実施する際の参考にお役立てください。
新規入場者教育の重要性を理解し、安全対策効果の高い作業現場で日々の業務を効率化しましょう。

新規入場者教育とは

新規入場者教育とは、現場の状況や注意事項などを新たに現場入りする入場者へ作業前に教育することです。
動画視聴やテキストを用いた口頭説明などによって、現場入りした朝礼後に短時間で実施します。
統括管理責任者や安全衛生責任者がテキストなどの資料を用いて口頭で伝える形が一般的な形式です。

新規入場者教育の法的根拠

新規入場者教育は、「労働安全衛生規則」で定められています。

建設業に属する事業を行う特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われるときは、当該場所の状況(労働者に危険を生ずるおそれのある箇所の状況を含む。以下この条において同じ。)、当該場所において行われる作業相互の関係等に関し関係請負人がその労働者であつて当該場所で新たに作業に従事することとなつたものに対して周知を図ることに資するため、当該関係請負人に対し、当該周知を図るための場所の提供、当該周知を図るために使用する資料の提供等の措置を講じなければならない。

引用:労働安全衛生規則「(周知のための資料の提供等)第六百四十二条の三」

「労働安全衛生規則 」に違反すると、懲役や罰金刑が課される可能性があるため注意が必要です。

新規入場者教育・雇入れ時教育・送り出し教育の違い

新規入場者教育と混同しやすい、「雇入れ時教育」「送り出し教育」の違いをまとめました。

対象者 実施時期 教育内容
新規入場者教育 新規入場者や作業者全員 新規入場当日や作業開始前 現場状況、作業概要、危険個所、ルールなど
雇入れ時教育 新規採用者 雇入れ時 機械・原材料等の危険性、疾病の予防、安全装置・保護具の取扱い方法、作業手順、点検、整理など
送り出し教育 現場に送り出す前の作業者 現場入り前日まで 工事概要やルール、自社の安全衛生方針や作業手順や遵守事項など

移動式クレーンの運転操作など危険な作業は、免許の取得や技能講習、特別教育の受講が必要です。

なぜ新規入場者教育が必要なのか?

職場で労働者の健康と安全を守り、快適な職場づくりの形成を目指すために、労働安全衛生法をはじめ、前述の労働安全衛生規則などがあります。
労働者の安全衛生対策として重要な役割を果たす新規入場者教育の目的や背景について解説します。

新規入場者教育の背景

新規入場者教育の背景には、建設現場に多い労働災害が影響しています。
工事現場では入場1週間以内、特に初日に被災するケースが非常に多く発生しているため、作業開始前に行う新規入場者教育が大切です。

労働災害の発生を防ぐためにも、作業員が決められたルールを守り、現場で必要な知識や情報を理解したうえで作業を行う体制が求められます。

新規入場者教育の目的

新規入場者教育の目的は、労災防止と現場の安全確保です。
建設現場では、日々作業者が入れ替わり、業務が進められます。
現場に慣れていない新規入場者による労災を防ぐために、新規入場者教育の目的を理解しましょう。

新規入場者教育の具体的な内容

新規入場者教育の具体的な内容として、実施時期・実施場所・実施者・実施時間・教育内容などがあります。
新規入場者教育の内容について、具体的に解説します。

実施時期:新規入場当日または作業開始前

新規入場者教育は、現場入り当日の朝礼後に行います。
作業開始前の入場者に対して行われ、関係請負事業者が新たに請負工事を始めるときにも実施します。

実施場所:現場の事務所会議室や打ち合わせ室など

新規入場者教育の実施場所は、現場事務所や会議室などで行います。
テキストや動画などの教育資料を用いることもあるため、情報共有がしやすく、集中できる環境を確保しましょう。

実施者:統括管理責任者や職長、安全衛生責任者

新規入場者教育の実施者は、工事現場の全体統括・管理責任者である元請け業者の職長や安全衛生責任者です。
新規入場者教育は基本的に雇用主である事業者が実施しますが、元方事業者が実施するケースもあります。

実施時間:15〜30分程度

新規入場者教育の所要時間は、15〜30分程度です。
現場の状況やルールを作業者に短時間で効果的に伝えることが求められます。

教育内容:厚生労働省「安全管理指針のポイント」より

新規入場者教育の内容は、以下の8点です。

<新規入場者教育の主な内容>

  1. 労働者が混在して作業を行う場所の状況
  2. 労働者に危険を生ずる箇所の状況
  3. 混在作業場所において行われる作業相互の関係
  4. 退避の方法
  5. 指揮命令系統
  6. 担当する作業内容と労働災害防止対策
  7. 安全衛生に関する規定
  8. 建設現場の安全衛生管理計画の内容

引用:厚生労働省「元方事業者による建設現場 安全管理指針のポイント」

建設現場での新規入場者教育の進め方と関係書類

建設現場での新規入場者教育の進め方は以下の通りです。

  1. 朝礼後に新規入場者を集める
  2. 「新規入場者調査票」を記入する
  3. 現場の作業内容や安全ルールを教える
  4. 「新規入場者調査票」に署名する

朝礼後に新規入場者を集める

まず、朝礼後に新規入場者を現場事務所の会議室などへ集めましょう。
朝礼後は注意喚起しやすいことから、現場の最新情報や安全確認を行うことで、新規入場者が作業全体の流れや注意点を理解を得やすくなります。

「新規入場者調査票」を記入する

新規入場者本人に記入してもらう調査票の内容は、緊急時の重要な情報源です。
新規入場者調査票によって新規入場者の経験を詳細に把握でき、事業者にとって適切な人員配置やサポートが行いやすくなります。

特に、建設業界での作業経験内容はクレーン操作や足場組立などの項目を設けるなど、具体的かつ詳細に伺うとよいでしょう。
新規入場者調査票の記入は、作業者の実務経験や健康状態などを把握でき、適切な人員配置による作業効率の向上も期待できます。

作業内容や安全ルールを教育する

新規入場者に作業所の概要や規則、保護具の使用や機械の取り扱い、作業内容、安全衛生計画などを教育することで、労働災害のリスクを低減し、生産効率の向上が期待できます。
事前に簡易テキストなどの資料を作成して配布することで、15~30分程度で理解してもらいやすいです。

教育テキストの一例として、建設業労働災害防止協会「建設現場における新規入場者に対する教育テキスト」を参考にするとよいでしょう。
教育資料の作成に関しては後述します。

「新規入場者調査票」に署名する

新規入場者調査票の記載内容を確認し、現場の作業教育後に新規入場者本人に署名を依頼します。
建設現場では、作業者の安全意識の低下や教育不足が労働災害や事故につながるミスを引き起こしやすくなります。
署名は、新規入場者が教育内容を理解したことを示し、事業者が新規入場者教育を行った証明として有効です。

「新規入場者調査票」の概要

新規入場者調査票とは、安全衛生管理のために現場入りする作業員の緊急連絡先などの情報を記入する書類です。

<新規入場者調査票の導入メリット>

  • 「新規入場時等教育実施報告書」の提出が不要
  • 元請会社の現場管理者が作業員の管理や現場の安全管理に役立つ
  • 労災発生時に必要な「労働者死傷病報告書」記入が本人以外でも可能

新規入場者教育を始める前に準備すること

新規入場者教育をするためには「資料」を準備する必要があります。

まず作業場所の概要や構成員が分かる書類として、以下の内容を記載したものが必要です。

  • 作業所名
  • 工事名
  • 発注者
  • 施工場所
  • 工事の概要や内容
  • 自社の組織図
  • 請負人の担当

また、作業場所の配置や場所が分かるような「案内図」を用意しましょう。具体的には、以下が記載されていることが望ましいです。

  • 駐車場、休憩所、トイレ、喫煙所など
  • 避難経路
  • 主要道路(人や車が通る可能性がある)の位置
  • 立ち入り禁止区域
  • 火器使用禁止区域
  • 危険物置き場

以上の内容を記載した資料をテキストや動画で準備しましょう。
FAX注文が可能な建設業労働災害防止協会「新規参入者教育用テキスト」などもおすすめです。

テキストを自作する場合は、上記の内容をふまえたうえで、エクセルやパワーポイントなどで作成します。
A4サイズ1枚を目安に工事の目的・概要・安全衛生計画・環境方針・安全施工サイクル・現場ルールなどを記載しましょう。

また、動画の新規入場者教育資料は効率化を重視する場合に最適です。
建設業において新規入場者教育資料を準備する際は、厚生労働省SAFEコンソーシアムの『「見える」安全活動コンクール』にある以下の作成例を参考にしてください。

作成例①「パワーポイントを用いた新規入場者教育の見える化」
作成例②「新規入場者教育資料の大きく見える化」
作成例③「新規入場者への安全教育の見える化」
作成例④「新規入場者教育のビデオ化」

まとめ

災害や事故などの危険と隣り合わせの建設現場では、多くの作業者が携わることから、現場の状況に合わせた安全対策を行う必要があります。
特に、入場初日に多発する労災事故を防止するためには新規入場者教育の質を高めることが重要です。

新規入場者に現場の状況や危険箇所、ルールなどについて十分な知識と情報をもれなく共有しましょう。
実施者の立場の方は、新規入場者教育に必要な教育資料を効率的に作成できるよう本記事で挙げたテキストや作成例を参考にしてください。

お問い合わせ

東京都江東区の斉藤労務管理事務所は東京・千葉を拠点に人事・労務を中心に業務を行っている社会保険労務士事務所です。業務内容・料金などについては、お電話または、お問い合わせフォームよりお問い合わせください。
無料相談も受け付けております。お気軽にご相談ください。

お電話でのお問い合わせは

03-6457-1153

受付時間:9:00 - 18:00(土日祝・年末年始除く)