社労士通信

2024年の改正でタクシー運転者の改善基準告示が変わる!変更内容を解説

2024年02月28日

長時間労働、過重労働になりやすいといわれている自動車運転者には、改善基準告示により労働時間などの労働条件に関するルールが定められています。

拘束時間の上限や与えられるべき休息期間、時間外労働や休日労働などに関する内容となっているため、関係者は必ず確認しておきましょう。

また、運転者として働く人たちがより健康で安全に仕事に従事できるよう、2024年4月に改善基準告示が改正されます。

具体的に何が変わり、自分の働き方にどのように影響するのか、しっかり把握しておきましょう。

改善基準告示とは?

改善基準告示とは、自動車を運転する労働者が安全に働けるよう、労働時間に関する基準を示すものです。
まずは、その目的や対象者、違反した場合の罰則について詳しくご紹介します。

目的

改善基準告示は、長時間労働になりがちなタクシー・バス・トラック運転者の労働条件を向上させ、身体的・精神的負担を軽減することを目的としています。

特に、長距離にわたって自動車の運転をする運転者は昼夜が逆転することも多く、長時間労働になりやすいことから、健康を確保することが何よりも大切です。

疲労からくる集中力の低下や居眠り運転などにより交通事故を引き起こし、周囲にいる人を巻き込んでしまう事態になることも防がなければなりません。

実際に、脳・心臓疾患による労災支給決定件数の多い業種のひとつに運輸業が挙がっていることからも、働き方を見直すためのルールが定められる必要があると考えられます。

対象者

改善告示基準の対象となるのは、会社に雇用され給与をもらっていて「四輪以上の自動車の運転業務に主として従事している者」です。
「四輪以上」なのでバイクの運転者は対象になりません。

また、同じタクシー会社や運送業者に勤めていても、運転者に該当しない会社の社長や事務員などは対象外です。

厚生労働省によると、運転時間が労働時間の半分以上であり、その業務に従事する時間が年間総労働時間の半分以上であるかどうかが判断のポイントになります。

出典:厚生労働省「改善基準告示(令和6年4月1日適用)に関するQ&A

違反するとどうなる?

改善基準告示は法律で定められた規則ではないため、違反しても法的な罰則を受けることはありません。

ただし、労働基準監督署から指導される可能性はあります。
基本的には事業所の自主的改善が図れるようにすることを目的としているため、丁寧な対応が予定されています。

違反の内容が重大なものである場合は国土交通省からの行政処分が下り、車両の使用制限や事業停止命令を言い渡される可能性もあるでしょう。

タクシー運転者に適用される改善基準告示の詳細

タクシー運転者に適用される改善基準告示では、具体的にどのようなことに関する内容が定められているのでしょうか。

拘束時間

拘束時間とは始業時間から就業時間まで会社に拘束されているすべての時間のことで、実際に運転している時間はもちろん、客待ちの時間や休憩時間も含まれます。
残業した場合は、その分の時間も合わせて計算します。

タクシー運転者に適用される改善基準告示では1日・1ヶ月の拘束時間の上限がそれぞれ定められていますが、日勤と隔日勤務では内容が異なるため、事前によく確認しておきましょう。

休息期間

改善基準告示では、休息期間についても定められています。

休息期間とは、その日の勤務が終了してから、次の勤務が始まるまでの期間のことです。

労働時間の合間に与えられる休憩時間は「完全に労働から離れられる時間」ではなく、休息期間には含まれないので注意してください。
基本的に休息時間は労働者が自由に過ごせる時間でなければならず、睡眠時間もそこに含まれます。

休息時間も拘束時間同様、タクシー運転者の働き方に応じて規制されているため、確認が必要です。

時間外労働・休日労働

労働基準法では、法定労働時間は「1日8時間以内」「1週間40時間以内」と定められています。
そして、休日は少なくとも1週間に1日与えなければなりません。

時間外労働や休日労働などによりこの時間を超える場合は、会社と労働者が36協定を結んだうえで、労働基準監督署への届け出が必要です。

改善基準告示では、やむを得ず時間外労働や休日出勤をさせなければならない場合の基準も設けられています。

2024年に改善基準告示が改正される理由

自動車運転者に適用される改善基準告示が改正され、2024年4月より適用されます。

2019年に働き方改革関連法の改正が行われてから、働き方に関するさまざまな法律やルールが変わってきています。
特に、労働時間に関する規制は重要視されており、過重労働の緩和につながる取り組みが多方面で行われているのが現状です。

自動車運転者は働き方が特殊であり、会社が労働時間を管理することが難しく、一般的な規制になじまないとされていました。
そのため、これまでの働き方改革関連法では、例外とされることが多かったのです。

しかし、過重労働が原因で自動車運転者が交通事故を引き起こす例は少なくなく、第三者にも危険を及ぼすリスクが高くなります。

ドライバーの労働環境を改善し、道路交通の安全を守るためにも、今回の改正が必要とされました。

2024年の改正による主な変更点

では、2024年の改正で改善基準告示の内容はどのように変わるのでしょうか。
日勤勤務者・隔日勤務者・車庫待ち等の自動車運転者に分けて詳しくご紹介します。

出典:厚生労働省「タクシー・ハイヤー運転者の労働時間等の改善基準のポイント

日勤勤務者の拘束時間、休息期間

日勤勤務者の1ヶ月の拘束時間については「299時間以内」から「288時間以内」に変わります。
各勤務日の拘束時間をそのまま1ヶ月分合計し、改善基準告示を満たしているか確認しましょう。

1日の拘束時間は「13時間」のままですが、最大拘束時間は「16時間」から「15時間」に1時間短縮されるので注意が必要です。

ただし、やむを得ず拘束時間を延長する場合は、1日につき「14時間」より長くなる日ができるだけ少なくなるよう、さらに、連続しないよう努力しなければなりません。

また、1日の休息期間は「継続8時間以上」とされていますが、改正後は「継続11時間以上」に変わります。
これを基本としたうえで「継続9時間」を下回らないようにすることが必要です。

隔日勤務者の場合の拘束時間、休息期間

2日間を1つの単位として働く隔日勤務者の場合、働く時間帯が特殊なので拘束時間や休息期間を確認する際には注意が必要です。

まず、1ヶ月の拘束時間については「262時間以内」のまま変更ありません。

隔日勤務の場合は労働時間が2暦日にわたるため、拘束時間と休息期間は2暦日で考えます。
改正により、2暦日の拘束時間は「21時間以内」から「22時間以内」に変わり、2回の隔日勤務を平均し、隔日勤務1回当たり21時間を超えないようにします。

2暦日の休息期間は「継続20時間以上」から「継続24時間以上」に変更され、継続22時間以下にならないよう努めることが必要です。

車庫待ち等の自動車運転者の拘束時間、休息期間

「車庫待ち」はタクシーの営業形態のひとつで、基本的に車庫で待機し、必要に応じ出庫するというものです。

日勤勤務の車庫待ち等の自転車運転者は、改正により1ヶ月の拘束時間を「300時間」まで延長できるようになります。
改正前は「322時間」まで延長可能となっているため、22時間の短縮になります。

1日の拘束時間については「24時間」まで延長可能なまま変更ありません。

隔日勤務の車庫待ち等の自転車運転者については、1ヶ月の拘束時間は現行どおり「270時間」まで延長可能です。

さらに、一定の条件を満たせば上記の時間に10時間を加えた時間まで、2暦日の拘束時間は24時間まで延長できます。

予測し得ない事象の取り扱い

改正後は「予測し得ない事象の取り扱い」についての項目が新設されます。

例えば、タクシー車両の故障や道路の封鎖、道路の渋滞などの事態に遭遇したときは、対応にあたった時間を拘束時間から除くことができるようになります。
異常気象により警報が発表されたり、乗船予定のフェリーが欠航したりした場合も同様です。

対応した時間を含めて1日の拘束時間を超えた場合は、勤務終了後に連続11時間以上、2暦日の拘束時間を超えた場合は連続24時間以上、休息期間が与えられなければなりません。

ただし、予測し得ない事象が発生したことを証明できるよう、日報による記録のほか、気象庁のホームページ等に掲載された気象情報等の写しなどの用意が必要です。

まとめ

タクシー運転者に適用される改善基準告示について、2024年4月の改正でどのような点が変更になるのかを詳しくご紹介しました。

改善告示基準とは自動車の運転に従事する労働者の労働条件を向上し、より健康で安全に働けるようにするために設けられたルールです。

対象となる運転者の条件や、定められている詳しい内容についてご紹介するとともに、改正されることになった理由や背景にはどのようなものがあるのかについても解説しているので、確認しておきましょう。

適用対象となるタクシー運転者や、運転者を雇用する企業は、改正によりどのようなことが変わるのかを事前に把握しておくことをおすすめします。

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