社労士通信

無期転換後の労働条件変更はどのように行われるのか?2024年の改正内容も解説!

2024年02月16日

一定の条件を満たした有期雇用契約労働者は、無期雇用契約に転換できるルールがあります。

無期転換を検討されている労働者にとって気になるのが「無期転換後の労働条件はどうなるのか」ということではないでしょうか。

「労働条件が変わることもあるのか」
「労働条件が変更になる場合はどのような方法で行われるのか」

などの疑問をお持ちの方も多いと思います。

本記事では、2024年の制度改正により、無期転換に関するルールがどのように変わるのかについてご紹介しています。
無期転換の対象になる労働者は、ぜひ参考にしてください。

無期転換とは?

無期転換とは、有期雇用契約労働者が無期雇用契約に転換されることをいいます。
目的や対象となる労働者・適用条件を確認しておきましょう。

目的

無期転換ルールの最大の目的は、有期雇用契約労働者の雇用や生活を安定させることにあります。

有期雇用契約とは、労働契約を結ぶ期間に期限を設けたものです。

柔軟に仕事を選択できる点はメリットですが、契約が終了すると新しい就職先を探さなければならないため、雇用の不安定さがデメリットとなります。
長期的に働くことができず、キャリアの形成が難しくなることも心配されます。

また、無期雇用契約労働者と比べて労働条件の待遇面に格差が生じやすいことも問題視されているのが現状です。
そこで、安定した雇用条件のもとで働けるようにするために、労働契約法の改正により無期転換のルールが定められました。

対象となる労働者

無期転換の対象となるのは、有期雇用契約労働者です。

有期雇用契約労働者とは労働契約期間があらかじめ決められている労働契約者のことで、契約社員や嘱託社員・パートタイム労働者・アルバイトなどが含まれます。
ほかにも、労働契約期間に定めがある労働者は無期転換の対象になるため、確認しておきましょう。

ただし、有期雇用契約労働者であっても、定年後も同じ企業に雇用されている場合や、高度な専門的知識を有している場合などは無期転換ルールの適用外となる場合があります。

適用条件

有期雇用契約労働者というだけで無期転換できるわけではなく、いくつか条件を満たしている必要があります。

まず、同じ企業で通算5年以上、契約更新が繰り返されていることが条件です。

ただし、通算期間を数えるときはクーリング期間が発生していないか確認しなければなりません。
クーリング期間とは無契約の期間のことで、原則6ヶ月以上のクーリング期間があるとそれまでの契約期間がリセットされるので注意が必要です。

また、同一の使用者との間で労働契約を結んでおり、契約の更新が1回以上行われていることも条件になります。
例えば、派遣社員は派遣会社に雇用されているため、途中から派遣先である企業に直接雇用されたとしても使用者が異なり、契約は通算されません。

以上の条件を満たしている有期雇用契約労働者から無期転換の申し込みがあった場合、企業は無期雇用契約に転換する必要があります。

申込方法

無期転換は「通算5年を超える労働雇用契約の契約期間が始まった日から、その契約期間が満了を迎える日」までに申し込むことが可能です。
契約期間が満了した後だと無期転換はできないため、注意しましょう。

使用者に対して無期転換の申し込みを希望する旨を明確に伝える必要がありますが、口頭ではなく書面による申し込みをおすすめします。

厚生労働省の無期転換ポータルサイトに無期労働契約転換申込書・受理通知書の参考様式が掲載されているため、参考にするとよいでしょう。

出典:厚生労働省 無期転換ポータルサイト「参考様式 無期労働契約転換申込書・受理通知書の例

無期転換後の労働条件はどうなるのか?

無期転換の申し込みをするかどうかを決めるにあたって、無期転換後の労働条件がどうなるのかを知っておく必要があります。
無期転換後のトラブルを回避するためにも、しっかり確認しておきましょう。

出典:厚生労働省 宮崎労働局「無期転換ルールQ&A

「別段の定め」がある場合以外、労働条件は原則変わらない

「無期転換をすると正社員と同様の労働条件になる」と勘違いされがちですが、労働契約法第18条には、無期転換後の労働条件は無期転換前の労働条件と同一とする旨の定めがあります。

ただし「別段の定め」をすることは可能です。
「別段の定め」とは使用者と労働者との合意のことであり、これがない限りは無期転換後に労働条件が変わることはありません。

例えば、無期転換をしただけでは「正社員と同じように賞与が支給されるようになる」といったことはないので注意が必要です。

労働者にとって不利益となるような変更はできない

「別段の定め」によって労働条件を変更する場合であっても、労働者の不利益となるような変更は認められません。

例えば「業務内容は今までと変わらないのに賃金が低下した」「休日の数を減らされた」などは、不利益となる変更であると考えられます。

また、会社が有期雇用契約労働者からの無期転換申し込みを抑制するために、本来必要のない配置転換条項を定めた場合なども、合理性が認められず変更が無効となる可能性が高いでしょう。

会社が「別段の定め」をする場合は、その内容が無期転換ルールの趣旨を阻害するものになっていないか確認しなければなりません。

無期転換後に労働条件を変更する方法

無期転換後に労働条件を変更するには、就業規則で変更する方法と、個別の合意により変更する方法があります。
それぞれの方法について詳しくご紹介します。

就業規則で変更する

有期雇用契約を締結したときから無期転換社員用の就業規則が定められている場合は「その変更の内容が合理的なものであること」「変更後の就業規則を労働者に周知させること」という条件を満たすことで就業規則の内容が労働条件となります。

無期転換後に無期転換社員用の就業規則を制定し、これまでの労働条件を不利益変更する場合は、変更内容の合理性と労働者の同意が必要です。

また、無期転換を行使する従業員が発生する前の段階で無期転換社員用の就業規則を制定し、これまでの労働条件を不利益変更する場合であっても同様です。

個別合意により変更する

労働契約法第8条にあるように、会社と労働者との個別合意により、労働条件を変更することが可能です。

つまり、会社側が一方的に労働条件を変更することは認められていません。

ただし、双方の合意が得られた場合であっても、変更後の労働条件が就業規則の内容を下回るようであれば、その変更は無効となります。
この場合は就業規則の規定が適用されることになるため、注意が必要です。

また、会社からの十分な説明がないまま合意してしまった場合も、変更が無効とされる可能性があります。

出典:労働契約法第八条・第十二条

2024年の制度改正について

2024年4月の制度改正により、労働契約の締結時や契約更新時に明示しなければならない労働条件が追加されます。
改正の目的や影響とともに、どのような事項が追加になるのかをご紹介します。

改正の目的

労働条件明示のルールが改正される理由には、契約社員やパートタイム労働者・アルバイトなど、有期雇用契約で働く労働者が増えたことが関係していると考えられます。

さらに、有期雇用契約者の多くが通算5年を超えて有期雇用契約を更新していることがわかっています。

今回の改正で追加される4項目のうち「更新上限の有無と内容」「無期転換申込機会の明示」「無期転換後の労働条件の明示」の3項目は有期雇用契約労働者に対する明示事項です。

無期転換を希望している有期雇用契約労働者の雇い止めに対する不安を解消するとともに、処遇の改善を図れることが期待できるでしょう。

改正による無期転換に関する追加事項

2024年4月の改正により、無期転換に関するルールにはどのような事項が追加されるのでしょうか。

出典:厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト

無期転換申込機会の明示が義務づけられる

無期転換の申し込みが可能となるタイミングで、該当する有期雇用契約労働者に対して申し込みできる旨を明示することが義務づけられるようになります。

「自分には無期転換の申し込みができる権利があるのか」「いつ申し込めるのか」がわからず、無期転換できる権利がありながら、申し込みをしていなかった労働者もいるはずです。

今回の改正により無期転換ルールの存在を知らなかった有期雇用契約労働者にも周知できるとともに、無期転換を希望する労働者が増えることが期待できるでしょう。

無期転換後の労働条件の明示が義務づけられる

無期転換申込機会の明示とともに、無期転換の申し込み権が発生するタイミングで無期転換後の労働条件の明示についても義務づけられるようになります。

必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」と、制度がある場合に明示が必要になる「相対的明示事項」があるため、それぞれ確認しておきましょう。

【絶対的明示事項】

  • 契約期間に関すること
  • 期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること
  • 就業場所、従事する業務に関すること
  • 始業・終業時刻、休憩、休日などに関すること
  • 賃⾦の決定⽅法、⽀払時期などに関すること
  • 退職に関すること(解雇の事由を含む)
  • 昇給に関すること

【相対的明示事項】

  • 退職手当に関すること
  • 賞与などに関すること
  • 食費、作業用品などの負担に関すること
  • 安全衛生に関すること
  • 職業訓練に関すること
  • 災害補償などに関すること
  • 表彰や制裁に関すること
  • 休職に関すること

まとめ

無期転換ルールの目的や適用条件・申し込み方法とともに、無期転換後の労働条件を変更する方法についても詳しくご紹介しました。

一定の条件をクリアした有期雇用契約労働者が無期雇用契約に転換した場合、転換後も労働条件は変わらないのが原則です。

ただし「別段の定め」がある場合は労働条件を変更できるため、確認しておきましょう。

本記事では、2024年の制度改正により無期転換に関するルールが追加されることについてもご紹介しました。
無期転換を検討されている有期雇用契約労働者の方は、ぜひ参考にしてください。

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